世界の消費者が何を望んでいるか?

DODAの業界レポート
http://doda.jp/e/msn/news/0902.html

超格安パソコンが大人気!パソコンは低価格・シンプル機能の時代に?

台湾のPCメーカー、ASUSのモバイルPC「Eee PC 4G-X」が爆発的に売れている。
2008年1月25日に発売された1万台は3日で完売したほどの人気ぶりだ。
何がその人気の秘密かといえば「4万9800円」というその価格。並みの中古パソコンよりも安いのだ。
2008.02.21

割りきった機能で低価格を実現

ITpro EXPO 2008(東京ビッグサイト・1/30〜2/1開催)にEee PCの実機が展示されていた。
とにかくサイズが小さい。
幅225mm×奥行164mm×高さ22mm(最厚部37mm)、重さはわずか920gである。
富士通が年発表し、大人気の「FMV-LIFEBOOK U8240」(重量580g)に比べるとはるかに大きいし、タッチパネルを搭載し操作性を高め、一般的な小型モバイルPCにも負けないスペックを持つ同製品とEee PCを比べるのは野暮というものだ。
価格が約3倍も違うからだ。

超小型かつ超廉価のEee PC、スペックはひと世代前のノートPCである。
CPUはインテルモバイルプロセッサ(パソコン誌『PCfan』のレビューによると、CPUにはCeleron 900MHzを搭載)、メモリ512MB、HDDはなく代わりにフラッシュメモリを搭載するがそれも4GBしかない。
ディスプレイは7インチで800×600ドット。
ただしUSBポートは3個、SDメモリ対応のカードスロットもあるので必要に応じて外部ストレージを増設しながらスペック不足を補うことになる。
このスペックでは当然ながらWindows Vistaは動かず、OSはWindows XP PersonalまたはLinuxOSだ。

大型量販店ではイー・モバイルの下り最大7.2Mbps対応の通信カード「D02HW」と抱き合わせで1万9,800円で販売した。
イー・モバイルではノートPCとセットで3万円引きのキャンペーンを行っており、これが適用されると2万円以下で買えてしまうのだ。
モバイルPCと割り切って使えば、スペックの低さも画面の小ささも愛敬である。
Webとメールが使えて、テキストが打てれば、あとは安ければ安いほどいいと思っているユーザーが多かったということだ。

Eee PCのキャッチコピーは“学ぶ・働く・遊ぶ”。
気軽にどこにでも持ち運べるし、子ども用としても最適。HDDを積んでいないから、少々乱暴に扱っても壊れにくい。

日本メーカーは格差パソコンを作れるか?

マサチューセッツ工科大学ネグロポンティ氏が提唱した100ドルPCは機能を抑えることで限界まで価格を下げ、後進国の子どもたちでも使えるPCを目指していた。
実際に発売された超廉価ノートパソコン『OLPC XO』価格は1台あたり175ドルと予定よりも高くなり、インテルマイクロソフトが協力を拒んだことで販売が振るわないようだ(ただしマイクロソフトは2008年下半期よりOLPC XOFlashベースのWindows XP軽量版をデリバリーすると発表している)。

インテルは独自に開発した同コンセプトの「Classmate PC」を発表した。
5〜14歳の子どもたちを対象とした製品で価格は225〜275ドル。
900MHz Celeron-Mプロセッサを搭載し、ディスプレイは7インチとEee PCと同程度。
それもそのはず、量産を請け負ったのはASUSでいわばこの2台は兄弟機なのだ。

Classmate PCはすでにインドやベトナム、フィリピン、タイなどへのデリバリーを開始しており、途上国の子どもたちにパソコンをというネグロポンティ氏の理想をインテルが商売として捉えて先行したことになる。
いわば格差パソコンである。

安く利幅の少ない廉価版PCだが、インドや東南アジアの人口を考えれば、その潜在市場は数千万台から数億台の巨大なものだ。

技術を誇る日本のメーカーは携帯電話に続き、PCでも同様に大きく出遅れている。
技術革新にこだわるあまり、途上国のニーズをつかみ損ねたのだ。
海外の携帯電話市場で、なぜ後発のサムソンに日本の名だたるメーカーが敗北したかといえば、サムソンがモノクロ液晶で通話とインスタントメールのみ、しかし価格は10ドル強という超廉価携帯電話を大量に販売したからだ。
砂漠の中に電話回線を引くよりもまずはPHSのアンテナを立てたからだ。
最初の1台にサムソンを選んだユーザーは、豊かになってからもサムソンを使い続けた。
日本国内の基準でしか海外のマーケットを捉えられなかった日本のメーカーは完敗した。

かつてアメリカ市場を日本車が席捲した時とまるで同じである。
車とは大きくガソリンを食うがゴージャスなものだという固定観念から抜け出せなかったビッグ3は小型車で攻勢をかけたホンダとトヨタにこてんぱんにされた。
日本の電子機器メーカーはその時のアメリカと同じである。
しかしアメリカは復活した。
今や世界の上位100社の9割をアメリカのメーカーが占め、世界の資産の半分はアメリカのものである。

このおもちゃのようなノートPCが問いかけるのは、世界の消費者が、それどころか日本の消費者すら何を望んでいるのかを日本のメーカーが知らないという現実だ。
日本のメーカーにEee PCを作る思い切り、グローバル化した弱肉強食の世界を生き残る勇気はあるだろうか?